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『夢のなかの魚屋の地図』井上荒野

夢のなかの魚屋の地図』は、井上荒野さんの初エッセイ集です。 井上荒野さんは、28歳の時に作家としてデビューされていて、そこからの24年間にいろいろな媒体で発表されたエッセイが収録されているのが、この本です。エッセイにも出てきますが、プロデビューしたものの書けなくなって、2冊目の本は40歳の時に出されたようで、エッセイについてもどうやらブランク後に書かれたものが多いようです。 著者があとがきに書いているように、このエッセイ集は、個人史とも言えるようで、著者の父親である井上光晴さんのことや、ご主人との結婚生活のことなど、この1冊を読むと著者の人生を垣間見ることができるかも知れません。 この本のタイトルになっている「夢のなかの魚屋の地図」は、生きの良い魚を食べて元気になった母親のことを書いたエッセイのタイトルです。東京には死んだ魚を売る店しかなくて、新鮮な魚を食べられない。移動販売の魚屋さんが来るようになって、新鮮な魚が食べられるようになり、快復したのです。食べるという行為の不思議について書かれたエッセイです。 もう一つピックアップするとしたら、「手帳」というタイトルの作品です。大学生の頃から手帳を使い始め、最近は使わないようになったけれど、やっぱり毎年買うだろうというような内容です。気になる記述は、こんな部分です。「記すのと同じくらい、眺めていた。一週間に区切られたページの上に、たしかめたいのは、その空欄がちゃんと埋まっている、ということだった。未来が埋まっていれば言うことはない。でも、そうそう埋まらないから、せめて過去を埋める。先週もちゃんと自分がこの世界にいたことを記す。刻一刻と過ぎて行く時を、無駄に使ってはいないという証拠を残す。」 僕の母親は、メモするということでは、とてもまめな人でした。パーキンソン病の特徴と言われているようですが、書く文字はとても小さく、その小さな字で家計簿のようなものが書かれていました。病気が進んで、だんだん字は乱れて行っていました。簡単な日記も書いていたのが見つかりました。亡くなる前々日に傷の手当のために病院へ行ったことが、短い言葉で記されていました。生きている証拠のように。 (47冊目/2017年)]]>

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