湯本香樹実さんの小説は、『夏の庭』と『岸辺の旅
』を読んだ。静かな文章、ゆっくりとしたストーリーの流れ、回想シーンが多い印象がある。この物語もそういう物語だった。
父親が急死して、母親は引っ越しのために、あちこちの町を彷徨うように歩いた。やがて大きなポプラの木があるアパートに辿り着き、そこに住むことにする。主人公の千秋とアパートの大家さんのおばあちゃんとの交流を中心に、物語は進んで行く。回想シーンとして。
死者に手紙を届けると言う役割があるのだと言うおばあちゃんに、千秋は父親に届けてほしい手紙を沢山託す。
死者への思いがテーマなのではなく、残されて生きることがテーマだと思う。
大人になった千秋とおばあちゃんの訃報から物語が始まり、回想シーンを挟んで、おばあちゃんの葬儀へと流れて行く。おばあちゃんの死を悲しいものとして描いているわけではなく、淡々と物語は進んで行く感じだ。生涯を全うして、そして役割を果たすという感じなのだ。
とても静かで、ゆったりと流れるストーリーが、読者の心を癒す感じがする。少なくとも、僕はそう感じる。湯本香樹実という作家の小説には、そういう同じテイストを感じる。次は何を読もうか、さっそく次に読もうと思う本を買った。
(15冊目/2018年)