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No.1543『夜の木の下で』湯本香樹実

No.1543『夜の木の下で』湯本香樹実

六つの短編が収録されている短編小説集です。
共通点は、主人公が少年または少女だった頃の回想とこれからの主人公について描かれているところでしょうか。
少年少女だったころの淡い思い出が主ではなく、まさに今からこの先のことが、とても印象的で、救われる物語ばかりでした。

一つ目は、「緑の洞窟」というタイトルの兄弟の話。弟と二人で潜り込んだ「緑の洞窟」の思い出が描かれています。
残念ながら弟は既に過去の人となってしまっています。

二つ目は、「焼却炉」というタイトルで、学校の焼却炉に纏わる思い出です。
誰しも小学生くらいの子供だった頃、掃除当番か何かで焼却炉までゴミを運んだ思い出があるかも知れません。
そんな時にいつも一緒だった友だちの記憶が、この物語です。

三つ目は、「リターンマッチ」。
主人公の友だちは身体が小さく、いじめられっ子ですが、ある日いじめの首謀者に挑んで行きます。
結果は見えているのですが、敢えて挑んで行く友だちの「リターンマッチ」の意義が、この物語のテーマだという気がします。

四つ目は、「マジック・フルート」というタイトルです。
両親が離婚し、母親が親権を持つ主人公は、母親の父に預けられます。要するに祖父との生活の思い出です。ちょっと変わった祖父と、不思議な体験をしたりした、幼い頃の回想の物語です。

最後が、表題作です。姉弟が母親に強制されて逆らえず、子猫を捨てに行く話です。
この物語だけ、姉の視点と弟の視点両方から描かれています。姉弟は恵まれた環境ではなく、両親を頼れないので、お互いを頼り合うような関係です。
ちょっと悲しい物語かなと思っていたのですが、最後は暗闇の先に確かな光が見えるような終わり方で、ちょっとほっとしました。

五つの物語に共通するのは、それぞれ決して明るくて楽しい物語ではないけれど、どこかから光が射しているような物語なのです。どんなに悲しい過去があっても、その先には光明がある、そんな物語です。静かだけど、とても力強い物語のように感じました。
(59冊目/2020年)

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